戦時下の子どもたちは必ず最敬礼した「奉安殿・奉安庫」 今なお残る「戦争遺産」から学ぶ教えは

2024-08-23 HaiPress

戦時下の学校で、天皇皇后の肖像写真「御真影(ごしんえい)」や教育勅語の謄本を保管した奉安殿(ほうあんでん)や金庫式奉安庫(ほうあんこ)。子どもたちは遊んでいる最中でも、前を通るときは角度の深いおじぎ「最敬礼」をしなくてはならなかった。戦後に多くが撤去されたが、「戦争遺産」として都内に残る奉安殿と奉安庫を訪ねた。

清水稲荷神社の社殿となっている奉安殿(左)=目黒区で

奉安殿・金庫式奉安庫戦前の学校では御真影などを保管するため防火性の高い奉安殿が建てられ、鉄筋コンクリート造の校舎が普及した都市部では、校内に金庫式奉安庫が多く設置された。敗戦後の1945年12月、GHQが国家神道の廃止や政教分離の徹底を示した「神道指令」を発し、多くが撤去された。

◆神社に転用され残存

朝日稲荷として残るかつての奉安殿=大田区で

東急東横線学芸大学駅から東へ徒歩15分ほど。目黒区目黒本町の閑静な住宅街にある清水稲荷神社に、かつて区立鷹番小学校に置かれていた奉安殿があった。戦後に移築され、社殿として地元民らを迎えている。

戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指令に基づく文部省(当時)の通達で撤去が進んだが、「神社様式の建築が多かった奉安殿の中には神社に転用されて残ったものがある」と、めぐろ歴史資料館の篠原佑典研究員(27)は説明する。23区では他に、大田区東雪谷の長慶寺の境内に朝日稲荷として現存している。

◆毎日状態を確認、様子を日誌に記録

都市部では校舎内に置く奉安庫も普及した。戦後は皇室関係の要素を取り除いて使う学校もあり、目黒区立原町小学校では収納庫として職員室で使っていた。奉安庫だったことが今春分かり、8月から同資料館で展示されている。他に、戦中・戦後の資料を集めた「昭和館」(千代田区)でも見ることができる。

奉安殿や奉安庫は戦時下には極めて神聖な存在だった。学校職員は異常がないかを毎日確認し、様子を記録した。原町小の1940年の学校日誌には、御真影が届く日の式典の予行演習について記され、「最敬礼」などと書かれている。

奉安殿に最敬礼をする子どもたち=目黒区で(1933年ごろ撮影、めぐろ歴史資料館提供)

原町小の1940年の学校日誌に残る、御真影が届く日の式典の予行演習の記録。「最敬礼」などと書かれている=目黒区で

当時の子どもたちは知らず知らずのうちに天皇に仕える「少国民」へと変容させられた。篠原さんは「奉安殿や奉安庫は、軍国主義的教育を繰り返してはならないと教えてくれる貴重な資料。実物を前に、かつての子どもたちの視線を体感してみては」と話した。

◆最敬礼が習慣で、御真影を「見たことない」

奉安殿や金庫式奉安庫に保管されていた御真影はどんな存在だったのか。

「今思えば、たかが写真。けれど、当時は神様だったね」。俳優・声優の矢田稔さん(93)=多摩市=は豊島区の小学校に通っていた当時を振り返る。

天皇誕生日などは校庭に子どもたちが集められ、御真影に最敬礼した。「きちんと見たことなんてない。触ることも前を横切ることもタブー。頭を下げることが習慣になっていた」

戦時中の記憶を語る矢田稔さん=新宿区で

◆学校教育の根本は「平和の大切さを伝えること」

6年生のとき、クラスの男子全員が「将来はお国のために死にます」といった作文を自ら書いた。「それが少年たちの美学だった」。国に尽くす子どもたちを輩出することが、当時の教育の根幹だったと語る。

奉安庫が置かれていた原町小に通った斉藤清子さん(90)=目黒区=も御真影を通じて「天皇に仕える『皇国民』だと教え込まれた」。最敬礼をしないと先生のげんこつが飛んできた。戦後に小学校教師となり、戦争体験を語ってきた斉藤さんは「平和の大切さを伝えることこそが学校教育の根本」と力を込める。

◆文・中村真暁/写真・由木直子、中村真暁、七森祐也

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